The Intelligent Investor
このページは,ベンジャミン・グレアムの「賢明なる投資家」のエッセンスを抜きだしたものです。
Table of Contents
- 第1章 投資と投機 賢明なる投資家が手に入れるもの
- 第2章 投資家とインフレーション
- 第3章 株式市場の歴史 1972年初めの株価
- 第4章 一般的なポートフォリオ戦略 保守的投資家
- 第5章 防衛的投資家のための株式選択
- 第6章 積極的投資家の分散投資 消極的な方針
- 第7章 積極的投資家の投資 積極的な方針
- 第8章 投資家と株式市場の変動
- 第9章 投資ファンドへの投資
- 第10章 投資家とそのアドバイザー
- 第11章 一般投資家のための証券分析
- 第12章 一株当たり利益に関して
- 第13章 上場四企業の比較
- 第14章 防衛的投資家の株式選択
- 第15章 積極的投資家の株式銘柄選択
- 第16章 転換証券とワラント
- 第17章 特別な四社の例
- 第18章 八組の企業比較
- 第19章 株主と経営陣−−配当方針
- 第20章 投資の中心的概念「安全域」
第1章 投資と投機 賢明なる投資家が手に入れるもの
投資と投機は明確に区別されなければならない。
投機をすること自体は構わない。悲劇の主人公は,それが投資だと信じながら投機をする者や, 許容されるリスク量を超えて投機をする者である。
投資とは,詳細な分析に基づいたものであり,元本の安全性を守りつつ,かつ適正な収益を得るような行動。
賢明なる投資家には防衛的投資家と積極的投資家の2つがある。前者は投資に時間をかけることに興味のない者, 後者は投資に時間をかけることに情熱をささげる者だととらえておきたい。
防衛的投資家が手に入れるものについては割愛。自分は積極的投資家だからだ。
積極的投資家が手に入れるものは,平均的な収益以上の収益。 それを手に入れるためのヒントとして,運転資本以下の株を買うことが挙げられている。 バランスシート投資だ。
補足
賢明なる投資家(財務諸表編)によれば, 運転資本 とは,流動資産から流動負債を差し引いたものとされている。
第2章 投資家とインフレーション
今現在も,この章についてはあまり興味が湧かない。
現実問題として,債券投資の対象となる商品が身の回りに見当たらないからだ。
この章では,これだけ覚えておこう。すべてを債券で保有するのが危険な行為であるということだけを。
それはそうだろう。もし,円の購買力がインフレによって下がってしまったら,たとえば,もし10分の1に下がってしまったら,債券の10分の9は紙くずになってしまうのだから。
一方,インフレになっても,株式の方は,ある程度は価格の上昇が見込める。もちろん,インフレを販売価格に転嫁できる立場にある企業の株式だけであるが。
その意味では,現金を多く保有する企業だけでポートフォリオを組むのは,危険な行為なのかもしれない。
仮に,債券投資を考えることがあるとすれば,債券の利回りが10%を超えて,どの株式も高くて買えないという時代が来た時である。
第3章 株式市場の歴史 1972年初めの株価
過去の株価,収益,配当の推移を見る目的は,株式の上昇基調(日本の場合は上昇及び下降と言うべきだろう)がどのように作られて来たか,株価および収益と配当に関してデータを見ていくことによって3つの重要な要素の多様な相関関係を明らかにすることであると,賢明なる投資家には書かれている。
この章に書かれているのは,株式市場の歴史といっても,賢明なる投資家に書いてあるのは米市場の歴史である。日本の株式市場の歴史を振り返ることはできるだろうか。
そう考えていたら,塩漬け姉さんというサイトの株式相場の歴史 一覧ページが見つかった。参考になりそうだ。
しかし,ネーミングといい,8年もの取引履歴を開示していたり,いや株式は巨大なサイトのコンテンツの一つに過ぎないというその旺盛な創作力といい,何とも圧倒される。
次に日米の長期のPER の推移を示したサイト投資十八番を発見。配当については,探し方が悪かったのだろうか,見あたらなかった。
私にできるのは,上記データを眺めるだけだが,やはり,日本の株式市場は下降基調にあるといっていいのだろう。その中で,「買い手」は生き残って行けるのだろうか。
生き残れるとして,あと何年だろうか。今,投資はできるのだろうか。
それでは,今現在の相場について,私自身がどう考えているかを明らかにしよう。
日経225PER・NT倍率/アセットアライブ株式情報によると,2011年7月9日現在での日経225の平均PERは15.4倍。
また,ヤフーファイナンスによると,同日現在の日経平均は,1万0137円。2004年当時の最安値に近い値と言える。
積極的に買いだとも言えないが,市場全体が危険ということもない。
注意深く銘柄を選べば,十分投資ができる状態だというのが私の見解。
第4章 一般的なポートフォリオ戦略 保守的投資家
この章も,いまだ私の関心をひくことはない。債券をポートフォリオに組み入れることが書かれているからだ。いくつかの気に入ったフレーズだけ書き記しておこう。
「期待できる収益率は,むしろ,投資家が自発的に投資のためにどれだけの知的努力を注げるかにかかっているはずだ。」
「利回り4・5%の月並みな債券を購入する場合よりも,大きな利益を上げる可能性のある『割安銘柄』を買う方が,かえって真のリスクは低いものである。」
第5章 防衛的投資家のための株式選択
株式投資は危険か
この章で書かれているのは,株式だというだけで,それをポートフォリオに組み入れることが危険だということも,その逆に,株式だというだけで安全に利益を上げられるということも言えないということ。
元本を保全しながら(それは,実質的な意味においても),適正な収益を上げるためには,どのようなポジションを取っておくのが適切なのかを,常に考慮しておかなければならない。
全てを現金で持っていたり,銀行に預けていたら安全なのだろうか。インフレが起き,1年後に物価が10倍に跳ね上がったら,どうなるだろうか。
ポートフォリオはどうやって組めばいいか
- 十分な,しかし過度にならない程度の分散投資(10〜30銘柄)
- 財務内容の良い有名な大企業を選ぶ
- 長期にわたる継続的な配当金支払いの実績がある(少し収益が悪化したぐらいで無配とかはダメ)
- 過去7年程度の平均収益に照らして支払うべき価格を決める。過去7年平均なら25倍まで。過去1年なら20倍まで。
成長株について
成長株は魅力的だが,素人が手を出しても失敗する。人気のない大企業に投資すべきというのがグレアムの主張。
ポートフォリオの変更
少なくとも1年に1度は銘柄を見直せ。ただし,最初にしっかりしていれば,頻繁に組み替える必要はないはず。
ドル・コスト平均法
・・・は,ある所でたたかれたので割愛。
投資家個々の事情
防衛的投資家は,優良株と米国債を半々買っておけというのがグレアムのお薦め。日本では,国債を半分も組み入れるなど考えられない。
リスクの概念について
リスクは,現実の売却によって損失が確定した場合,投資先企業の経営状況が著しく悪化したために株価が下落した場合,証券の内在的価値に照らして高すぎる株価で買い付けた結果の値下がりに限って用いる。
株価は変動するもの。ボラティリティはリスクを計る目安ではない。
「財務内容の良い有名な大企業」とは
Makky 流に言うと,
- 株主資本比率50%以上
- 業界で3位以内か,それ以外の理由でも有名だと思えればOK(ある程度主観的)
第6章 積極的投資家の分散投資 消極的な方針
この章では,積極的投資家も基本方針としては防衛的投資家のそれと同じく,資金を適切な価格の優良債券と優良普通株とに分散投資せよとしている。
知識が増えて来ると,いろいろ手を出したくなって来る(現実に利益を上げている他人を見るといてもたってもいられなくなる)が,それを堪えろという次の戒めを守ること。
- 二流債券と優先株はやめておけ
- 外国政府債はやめておけ
- 新規発行債一般についてやめておけ
- 新規普通株の発行(IPO)に手を出すことは特にやめておけ
第7章 積極的投資家の投資 積極的な方針
この章でメモするのは,グレアムが,ほとんどの人間は防衛的投資家に徹せよと言っていることと,積極的投資家に対して,割安株を購入せよと言っていることとだけにしておこう。
割安株とは,その価値が本来の価格よりも,少なくとも50%以上になっているものを言う。
その見分け方として,最も簡単なのは,その株式が,優先負債をすべて差し引いた後の純運転資本以下の価格で売られていることである。
第8章 投資家と株式市場の変動
この章では,株式や長期債を保有する投資家が,全て価格変動による影響を受けること及びそれへの対処法が書かれている。
株価の変動から利益を得る可能性のある手法として,タイミング手法とプライシング手法が挙げられる。
タイミング手法のうち,株価の変動を予測して利益を上げることは,少なくとも一般の投資家にとっては不可能なことである。
弱気相場で買い,強気相場で売るという手法は,一見,理にかなっているかに思える。しかし,現代の株式市場の相場サイクルは複雑化しており,この手法で確実に利益を上げることはできない。
第9章 投資ファンドへの投資
この章では,投資ファンド(投資信託)への投資について論考がなされている。
まず,投資ファンドはミューチュアルファンド(オープンエンド型ファンド)とクローズドエンド型ファンドに分かれる。
前者は,中途解約が可能なファンド,後者は不可なファンドと覚えていればいいだろう。
ファンドには,様々な分類方法があり,賢明なる投資家では,ポートフォリオの組み方による分類,目的による分類,販売方法による分類が紹介されている。
投資ファンド一般について説明をした上で,グレアムは,次の質問を提起する。
- 投資家が正しいファンドを選び,確実に平均以上の成績を上げられるか。
- もしそれがないなら,平均以下の結果になるファンドをいかにして避けるか。
- 投資家はさまざまなファンドから賢明な選択をすることができるのか。
最初の質問については,少なくとも,市場平均を大幅に超えるようなリターンは望めないとしている。ただし,退場するようなことはないだろうとも付け加えてはいるが。
次の質問については,「パフォーマンスファンド」の例を挙げて,暗黙のうちに,「値上がり」を標榜するファンドが半ば詐欺に近いものであると指摘した上で, それを避けるようにほのめかしている。
また,オープン・エンド型ファンドとクローズド・エンド型ファンドについては,2者の選択しか許されないなら,必ず後者を選ぶべきだとしている。
最後に,バランスファンド・・・株式と債券の組み合わせで構成されるファンドについては,そのパフォーマンスが話にならないほど低いとして,避けるように勧めている。
第10章 投資家とそのアドバイザー
Makky 流の解釈を書いておくに留めておこう。
もし,投資に際してアドバイスを求めるとしても,アドバイザーに対して自分の態度をはっきり示し,なおかつアドバイスを鵜呑みにせずに 投資判断をすることが肝要である。
第11章 一般投資家のための証券分析
証券分析を行うに当たっては,まず会社の年次報告書を正しく解釈するところから始めるべきだと書いてある。 そのための教本として,賢明なる投資家(財務諸表編)が薦められている。 この本が簡単すぎてお薦めできないようなレビューを見かけることがよくあるが,私はこの本がいいと思う。 グレアムの投資哲学が垣間見えるからだ。
債券分析
ここでもいろいろなことが書いてあるが,あまり興味はない。 債券や投資適格優先株の安全性や質に関する分析については,収益が利払い合計や,利払いと優先配当金の合計に対して何倍あるかがポイントとなるということだけ覚えておこう。
普通株の分析
ここでは銘柄の評価の方法について検討が加えられている。 一般的には,銘柄の評価は,平均収益×資本化乗数で求められるとされている。PER で買うのと大差はないだろう。 資本化乗数に影響を与える要因としては,
- 全般的な長期見通し
- 経営者
- 財務内容の健全性と資本構成
- 配当実績
- 現在の配当率
が挙げられている。 経営者については,過大評価に陥る可能性があるとの指摘は有益だ。
成長株の資本化乗数以下についてはパスだ。興味がない。
第12章 一株当たり利益に関して
この章の記載は,今現在も自分が証券分析をするに当たって,最も念頭に置いているものの一つだ。
この章でのグレアムの主張は単純だ。1. 年間収益を気にしすぎないこと 2. 気にするなら,一株当たり利益に隠れた落とし穴に警戒すること この2つだ。
隠れた落とし穴とは,希薄化要因と特別項目だ。後者の特別項目に関しては,不景気の年の一株当たり利益に,悪材料の全てを押しつける経営者の存在を指摘している。
リーマンショックの2008年や,震災と米国債デフォルト騒ぎの今年(2011年)の年間収益には気を付けた方がいいだろう。
希薄化要因と特別項目の操作に続く要因として,減価償却が挙げられているが,詳細は後に譲られている。
隠れた落とし穴のショックを和らげるマシな方法として,平均収益の利用が薦められている。過去7〜10年の平均収益を,価値を算出するための基礎とすべきだということだ。
企業データにおける成長要因を「適切な形で」考慮に入れることが最も重要なこととされている。
「価値=平均収益×乗数」,この方程式のうち,乗数に成長要因が関わって来るということだ。
成長要因を考慮に入れる際には,成長率を過去3年間の平均と10年前の同様の数値との比較ですべきだとされている。
しかし,こうして得た計算結果の信頼性について,グレアムは疑問符を付ける。
第13章 上場四企業の比較
四社の比較
この章では,上場四企業を比較して,証券分析を行っている。
財務諸表から得られる各種データと,それから求められる各種レシオ,株価の推移を基に,次の検討が加えられている。
-
収益性
ROA,売上高営業利益率をもとに,その収益性を評価してる。四社とも好評価である。
-
安定性
過去10年間において,それに先立つ3年間の平均値と比べて,1株当たり利益の最大の減少を計算した上で評価している。 二社は安定性100%,残る二社も100%マイナス8%程度で,それほど気にしないでよいとしているようだ。
-
成長
具体的に何をもって成長していると詳細に書いてないのだが,1株当たり利益について,過去3年間の平均の数値を出した上で, それを12年前〜10年前の3年間の平均,7年前〜5年前の3年間の平均と比べた上で, 成長率については二社については満足,残り二社については大いに満足と評価しているようだ。
-
財務状況
流動比率を使って,その比率が200%以上であるということをもって四社とも好財務だとしている。
-
配当
配当が途切れないことをもって好評価としている。うち一社は,1902年〜1970の間,無配だった年がないらしい。 自分としては,それだけのデータをもって,プロは判断しているのかと思うと気が遠くなるのだが。
-
株価の推移
PER の低い2社については株価の変動は大きくなく,高い2社については変動が大きい。
上記6点について検討を加えた結果,いろいろと理由を述べているが,グレアムは,ROA が高く,PER が高く,PBR が高い 2社を投資対象から外しているように見える。
要約
上記検討の上で,結局は次の要約をもって投資適格な普通株を選べとしているようだ。
- 適切な規模
- 財務状況が十分に良い
- 最低過去20年間,継続的に配当がある
- 過去10年間,赤字決算がない
- 1株当たり利益が,10年間で最低3分の1以上伸びている
- PBR 1.5 倍以下
- 株価が過去3年の平均収益の15倍以下
第14章 防衛的投資家の株式選択
この章で,まずグレアムが書いているのは,「分散投資」である。このことを見逃してはいけない。
分散投資には,次の2種類があるとしている。1つは ETF を買うこと(現代流にアレンジしてます)。もう一つは,計量的な基準で選んだ銘柄のポートフォリオを構築すること。
後者の方法は,個別銘柄の選択に際して,1.その会社の過去の業績と現在の財務状況に関する最低限の基準, 2.株価に対する収益と資産に関する最小限の基準を満たす基準をクリアするものであるべきだとしている。
その基準をクリアする銘柄とは,前章の要約で述べた基準をクリアしたものということのようだが,それを再度掲げることはしない。 ただ,PER×PBR<22.5 という数値だけは示しておこう。
補足として,1株当たり利益が,10年間で最低3分の1以上伸びていることが基準の一つとされているが, グレアムは,株価が十分安ければ(収益の成長がなくても)割安のチャンスとしていることも,ここで指摘しておきたい。
これ以外の記述については説明を割愛するが,これだけは述べておこう。市場における評価には,予測に重点を置くものと,防御に重点を置くものの二つがある。 グレアムが採るのは,当然,後者である。
第15章 積極的投資家の株式銘柄選択
まず,第14章と題名が違うのに注意。第14章は「株式選択」。第15章は「株式銘柄選択」。
この章では,積極的投資家が市場平均より高いリターンを得るための方法と,その勝率が低いことを同時に述べている。 その証左として,投資信託の運用実績を上げている。実際,平均的な投資信託の運用実績は,現在においても市場平均を下回る。
投資信託が市場平均を上回れないことについて,グレアムは2通りの説明をしていて,そのいずれも部分的に正しいとしている。
1つめの説明は,投資信託は,予測に基づいて株式投資をしているものの,株価は本質的にランダムかつ偶発的な動きを見せるものであり,予測は徒労に終わるものであるということ。 仮に,株価の値動きを予測できるものがあるとして,優れた証券アナリストによってそれはすでに予測されて株価に織り込み済みであり,人に抜きんでることは困難であるということ。
もう1つは,証券アナリストは,銘柄選択において,顧客を意識するがあまり,すでに値の上がってしまった人気銘柄を買わざるをえないということ。
そんな中で,一般投資家が市場平均を上回るリターンを得るチャンスがあるとすれば,ニッチである。グレアムの言葉をそのまま引用しておこう。
株式市場では相当数の銘柄が標準的分析による銘柄選択からしばしば除外されているのだとすれば, 賢明なる投資家には,その結果生じる割安銘柄から利益を得るチャンスが生まれるのである。
つまり,証券アナリストが見逃しているような,不人気銘柄から選べと言っているのである。
正味流動資産価値以下の割安銘柄
この章では,グレアム・ニューマン社が行った,いくつかの売買方式の概要が書かれているが,私がメモするのは,正味流動資産以下の割安銘柄だけにしておく。
グレアム・ニューマン社は,正味流動資産,すなわち運転資本(流動資産−流動負債)の3分の2以下の価格で入手できる割安銘柄を100銘柄以上に分散して購入し, ほぼ一貫して満足のできるリターンが得られたとしている。
グレアムは,米国市場では,このような割安銘柄をあまり見かけなくなったと書いているが,少なくとも,日本の株式市場では,よくお見かけする。
それが必ず満足の行くリターンを保証するというのなら,これに手を出さないでいる理由はないだろう。
第16章 転換証券とワラント
この章は,内容をそのまま書くことはしない。要は,価値の裏付けのないものを飾りたてて,あるいは誇張して価値があるかのように装い, 愚者から価値を強奪する紙きれに,騙されてはいけないということだ。
これは,何も転換証券とワラントだけに限った話ではない。しかし,特に気を付けるべきものとして,近寄らないように気を付けておくに越したことはないだろう。
第17章 特別な四社の例
特別な四社というのは,何か特別に利益が上がる四社という意味ではない。
現代ではざらに見る例だが,少なくとも当時においては,納得の行かない事象の起きた四社に関し,ペテンや欺瞞,無謀,アナリストの怠慢が引き起こす悲劇について書いてある。
ペン・セントラル鉄道
ペン・セントラル鉄道に関しては,1970年に破産に陥る前,遅くとも2年前にはその危険信号を察知することが十分可能だったにもかかわらず,株価が高値を付けるのを看過してしまった証券アナリストに対して,倫理的な道義を問うている。
おそらく,同社は利益の報告を粉飾していた形跡が伺れるし,粉飾した後だとしても債券の利払いに対して満足の行く収益を上げていなかった。
また,1株当たり利益を操作して,一方では利益が上がったとしていながら,一方ではその倍近くの特別損失と費用が後に計上されるというペテンが行われていた。
高値を付けるように操作された株価だが,その高値で経営者は持ち株を売り抜けたのだろうか。
リング・テムコ・ボート社
たった12年の間に,次々と事業を拡大しては借り入れを繰り返し,ついには巨額の損失を出してしまい, 社長の座を追われた若き天才の経営する会社についての説明である。つい最近も,そういう企業が日本になかっただろうか。
事業を拡大する間,この企業には危険信号が出続けていた。負債はどんどん膨らんでいた。 赤字も出ていたのだが,第12章でも触れられた,1970年に全ての悪行を押しつけるペテンを行い,利益を粉飾していたのだ。 そんな企業,日本にもないだろうか。
グレアムは,このような財務に問題のある企業に,どうして銀行が融資を続けたのだろうかと疑問を呈し,このような愚行を反省すれば, 良い結果に繋がるとしている。果たして,反省できているのだろうか。愚行は繰り返される,それも規模を大きくして。私はそう言いたい。
NVF社のシャロン・スチール社買収
これは,自分よりも約7倍の規模の会社を買収した企業の会計操作に関する説明である。
買収により,新たに過剰な債務をかかえ,さらには被買収会社の株主に破格の条件を与えたために,株式価値を希薄化し,既存の株主に損失を被らせた過程が書かれている。
さらには,社員に自社の株式と,さらにはワラントを売りつけて資金を確保しようとした。
株主と社員,自社の健全性。ペテンでそれらを犠牲にしてまでする買収劇に意味はあるのだろうか。
AAAエンタープライズ
この章では,株式を新規公開してからたった2年弱で破産してしまったフランチャイザーの愚行と,それをやすやすと認めてしまった証券会社への痛烈な批判が書かれている。
同社の経営社のバラ色の夢に,まず証券会社が引き寄せられ,次に新規に発行され公開された同社の株式に投機家が引き寄せられた。
まずは,証券会社,経営者,投機家がまずまずの利益を上げることに成功した。バラ色の夢は現実化するかに見えた。だが・・・。
それによって得た資金で事業を拡大したところ,新規公開したその年の暮れには大幅な損失を出してしまい,資本のほとんどを食いつぶしてしまったのだ。
それでもその年の暮れには信じられないような高値が,同社の株式には付けられたが,それはもう狂っているとしか言えない事態だった。
その翌年,さらに多額の損失を経営者の融資でもちこたえたものの,さらに翌年の1月には破産をしてしまった。
おそらく,同社は株式の新規公開の時点で,かなりの負債をかかえていたのだろう。それを,巧みな会計操作により隠していたとしか思いようがない。
それを,証券会社が見抜いてくれないとしたら,わずかな情報しか持たない我々は,どうしたらいいのだろうか。
私は,近付かないに越したことはないと言い聞かせている。たとえ,IPOで儲ける人々がいくらいようとも。
第18章 八組の企業比較
この章は,さすがにメモはしない。いずれ,日本の企業で同様の比較をしてみよう。
グレアムは,とにかく比較が好きだった。
第19章 株主と経営陣−−配当方針
モノを言う株主というのが,少し前に流行っていたが,株主の意見というのは,そのほとんどが虚しく終わってしまうものである。
それだけで,この章は終わってしまってもいいのだが,配当方針に関しては,興味深いものがある。
配当については,配当をしない方針により利益を内部留保し,それを再投資することによって企業価値を増大させるべきだという意見と, 内部留保による再投資は,往々にして無駄に終わってしまうのだから,よほど明確な根拠がない限り配当に回すべきだという意見に分かれる。
グレアムは,後者の意見をとる。収益の3分の2は配当に回すべきだとするようだ。
第20章 投資の中心的概念「安全域」
グレアムの主張を一言で要約すれば,「安全域」を持った取引をしろ,ということになる。
その証券の持つ,本質的価値(それは,存在するようで存在しない,存在しないようで存在するものなのだが)と価格を比べて,価値が価格を大きく上回ると考えられるものだけを買うということだ。
この手法は,大きな利益を約束するものではない。しかし,安全域は,予測の誤りや計算間違いを吸収してくれるので,大きく損をすることもない。
分散投資と併せて使うことにより,確実に,満足のできる利益を投資家にもたらしてくれるのだ。
Date: 2011-08-16 05:05:36 JST